2020/10/04 17:09

by シュウ(G.T.D./Balladmen)


 もう半年ほど前になるが、東京のBLACK AND WHITE というバンドが1stアルバム、「ONE CHORD WONDERS HERE'S THE BLACK AND WHITE」をリリースした。私はその頃、西荻窪ピットバーで開催された彼らのレコ発ライブに足を運び、そのLPを購入。以来、頻繁に聴かせてもらっている。理由はよく分からないが無性に聴きたくなる不思議なレコードであり、気が付けば針を落しているという、個人的には近年稀にみる出来事である。

今回はそのBLACK AND WHITE の中心人物、Mick Sick氏(以下M)に話を聴いてみようと思うが、既に他で聴かれていることだろうし、敢えてPUNK以外の側面に触れてみたいと思っています。

S:では早速、「ONE CHORD WONDERS HERE'S THE BLACK AND WHITE」についてですが、制作にあたってイメージしているような作品とかはあったんでしょうか?または、どんな作品にしたかったとか。

M:パンクの1stアルバムって全部が全部最高じゃん。とにかく最高なのを作ろうと。結成からリリースまでに時間かかったけど、もうディス・イズ・ファースト・アルバムってイメージ。無駄を一切排除した初期衝動全開。

S:確かに。1stシングルの"Mortal Sin"を一曲目に収録した辺りもにくいですね。タイトルなんかもそんなつもりで?

M:初ライブからずっとライブでやり続けてるんだけど、廃盤になってしまって、、。新たに好きになってくれた人達にも手に入れやすくしたいって気持ちもあった。タイトルはもちろんそのつもり。

S:良い曲ですよね。僕も大好きな一曲です。
シングル等も手に入りづらいものが多いみたいで、再録なんかも嬉しい人が多いと思います。
その中の一曲、"You Talkin' to Me"についてですが、これはやはりマーティン・スコセッシ監督の映画「タクシードライバー」の有名なセリフかな?どんな内容の曲なんでしょう?僕もあの映画がすごく好きで気になっていまして。

M:勿論タクシードライバーの台詞だよ。怒りの矛先を他者に向けずに自分に向けろ!葛藤しろ!って自分自身への戒めを込めた内容。

S:劇中でデニーロが鏡に向かって話かけているシーンですよね。やっぱこの辺りの映画(スコセッシとかアメリカン・ニューシネマとか)からインスパイアされた曲とか、他にもあったりします?

M:考え方とかはニューシネマに凄く影響受けたよ。今作ってる新曲は俺たちに明日はないが題材だ。楽しみにしててくれ。

S:パンクの歌詞っていうと他者に向かっていく印象があるのですが、さっきの質問でyou talkin to meのように怒りを自己に向けている辺りクールに感じます。
ニューシネマに影響を受けた考え方とは、どんなところですかね?また、好きな映画とか教えてください。

M:歌詞についてのテーマは倫理、不条理、反抗、色々なパターンがあるよ。反抗がほとんどだね。
影響を受けた考え方については、シニカルで反抗的な考え方かな。アンチ・ハッピーエンドだから。人生そんな上手くいかねーよな。
マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、クリント・イーストウッドが出てる1978年以前の映画は全てマスト。

S:おー、僕もそれらの俳優は大好きだし、その時代は最も好きな時期です。個人的に(Mick Sickと)話したこともあったと思うけど、ゴッド・ファーザー、狼たちの午後、ミーン・ストリートとか、ダーティ・ハリーのシリーズ等が思い起こされました。どれも反抗や群れのはみ出し者や一匹狼、不条理だったりアンハッピーな結末を描いています。
なるほどです。BLACK AND WHITE の音楽以外の側面がほんの一部見えた気がします。

で、映画もそうなんですが、普段話しているなかで、音楽以外のものからの影響もチラチラ垣間見えます。それらについて話してもらえますか?音楽や映画以外であなたに影響を与えたものについて。
M:本とか好きだよ。イカれた家庭環境もでかいんじゃないかな。

S:本はどんなものを読んでます?

M:カミュの「異邦人」は何度も読んだ。あとはジャック・ケルアックの「路上」。好きな映画の原作は大概読んでるよ。

S:「今日ママンが死んだ」ってやつですね、僕も子供の頃、何度か読んでます。なかなか強烈ですよね。ケルアックの「路上」も然り。そう言えばこの間、ゴッド・ファーザーの原作が良いって言ってましたね?まだ読んだことないのですが。

M:原作読んでから映画を見返すと細かい心情とかわかって最高なんだよね。それ嫌がる人多いとは思うけどね。細部まで知りたいじゃん。

S:確かに。ゴッドファーザー、今度読んでみますよ。このインタビューを読んでる人にもそれを感じてもらいたいですね。その話しに繋がりますが、Mick Sickさんは音楽にしろ映画にしろ、それを作った個人や、個人の持ってるエピソードに凄く注目してますよね?

M:好きなら当たり前のことだと思う。毎日の食生活ですら気になるしね。食い物は体を表す。

S:(笑)面白い考え方ですね。
では、その「イカれた家庭環境」についても少し良ければ聴かせてください。
確か、実のお兄さんも音楽作っていらっしゃいますよね?そのお兄さんからの影響が大きいとか?このインタビューにあたり、僕もお兄さんの音源を聴いてみたのですが、ある意味真逆の音楽ですよね。

M:我が一族は真髄を求め、追及し、高め、削ぎ落とし一点のみの星を撃つ。先祖代々受け継がれてきた教示があるんだ。だが、あいつはクソだ。
でもテレビでクソみたいな音楽番組見ようとすると勝手にチャンネル変えられるんだよ。その事に関しては本当に有り難いと思ってるよ。レコードを家が揺れるくらいの爆音で聴ける環境だったし。

S:それは素晴らしい教育方針ですね(笑)
僕はよそ者なのでトゥリーベリーズ(Mick Sick実兄がやっていたバンド)については多くを知らなくて。最近リリースされたものを聴いて、「良い音楽作る人だなー、この兄にあの弟か」とか関心していたところなんですがね(笑)

では、音楽の話題に戻します。普段、個人的にやりとりさせてもらってて、パンク以外の音楽も熱心に聴いてることは伺ってます。最近聴いたもので、良かったものを教えてもらえますか?
M:ブロンディ、クラフトワーク、ブルース・スプリングスティーン、Xレイ・スペックス、ファンカデリック、ザ・ジャム、エルビス・コステロ&ジ・アトラクションズ、ワイアー、パティ・スミス、ビッグ・スター。

S:いいですね、しかしファンカデリックが意外でした。今後の曲作りに影響ありそうですか?

M:影響とかではなく、自然と出てくるんじゃない。脳内のデータに残るからね。影響受けたバンドが聞いてた音楽は聞くようにしてる。ファンカデリックはザ・クラッシュ経由だよ。

S:あー、そっかクラッシュですね。僕もクラッシュには色々と教えてもらってます。キース・リチャーズが「ストーンズみたいになりたきゃ、ストーンズ聴いてないで古いブルースを聴け」って言っていたのを思い出しました。パンクだけを聴いていてもパンクは作れないと。

M:それはそうだよね。ジョニーロットンのラジオDJの幅広さに驚いて、最初は全部クソばっかじゃん!って思ったけど今はどっぷりだ。そもそもパンク以前にパンクなんて無かったし、本当に嗅覚の鋭い人が珠玉の音楽を厳選して聴いて最高な音楽を作り上げたんだからね。

S:僕も最初は「カーティス・メイフィールドの"Move on up"はトロい。やっぱジャムでしょ」とか思ってましたが、そうなんですよね。先人達は死ぬほどいい音楽をたくさん聴いてる。イギー・ポップが「Fun House」の制作について、「ロックもジャズもごちゃまぜにした作品が作りたかった」と言ってて、やっぱ最初から色々聴いているんだなと。

M:「There's No Place Like America Today」は最高だ。「Fun House」も強烈なアルバムだよね。「Raw Power」も何度聴いたかわからない。

S:どれも最高ですね。
今回はB&Wの不思議な魅力について迫ってみるつもりでしたが、何となく、糸口程度は掴めた気がしています。表現は純度100%のパンク・ロックでも、中に詰まっているものが何なのか、もっと覗いてみたい気分になりました。ゆえに今後の活動、作品も楽しみです。
最後に今後の活動について教えて下さい。

M:1stアルバムをリリースして1977年のパンクへのけじめはつけることができた。今後は1978年に突入して新たな最高なパンクロックを作っていこうと思う。

S:ありがとうございました!