2021/02/02 23:18
text by シュウ(G.T.D./Balladmen)
ひと通りお話を聞きたい友達にはインタビューができたかな、ということで、今回はインタビューではなく、コラムの形で一筆書かせて頂きたいと思います。せっかく沢山の方に読んでもらえてるブログということで、たまには自分の好きな音楽も紹介させていただこうかと思い立ったわけでございます。
私のインタビューを読んでくれている人達の殆どはロックファンだと思います。なので敢えて、普段触れる機会の少ないだろうジャズについて書いてみようと思います。興味があれば御一読くださいませ。ジャズもロックと同じように面白く楽しく、興奮できる音楽であることを感じていただければ幸いです。

「マッコイ・タイナー、ジョン・コルトレーン、ジミー・ギャリソン、エルビン・ジョーンズ(L to R)。60年代初頭に一世を風靡したコルトレーン・黄金カルテット」
私の周りではジャズについて、「どう聴いていいのか分からない」といった意見がよく聞かれます。そして、この意見について自分なりの分析を試みたところ、ひとつは以下の通り。
ロックという音楽には殆どの場合ボーカルというハッキリとした主役的な存在があり、主役がハッキリしているので形が捉えやすい。しかしジャズにはそれがない。ロック的に言うところの「インスト」が主流である。そしてジャズという音楽は群像劇的であり、一つ一つの楽器が主役であり、脇役である。なので、どこを注目すればいいのか分からない。だから耳が迷う。そういえば「ヴォーカル物であれば聴ける」という人にも複数名出会ったことがあるが、きっとそういうことなのであろう。
これが「ジャズの聴き方が分からない」という意見に対する個人的なざっくり解釈のひとつなのですが、であるならば各々、意識的に主役を設定すればいいというのが私の見解。因みに私の場合はズバリ、ベースを中心にジャズを聴くようにしています。
私がベースを選んだ理由としては、まず、その音質上どのようなプレイであっても大概はズシンと構えて格好がよろしい。そして、それぞれの楽器とベースとの絡みが実にオモシロイ!という訳でベースという楽器にとことん惹かれるようになり(生まれ変わったらベーシストになりたいと思うくらい)、ますますジャズにのめり込むようになりました(因みにウッドベースは和製英語。アメリカではコントラバス、ヨーロッパではダブルベースという呼称が主流。アップライトベースというのも正しい呼び方であるそうな)。

「チャールズ・ミンガス」
まあ、上記はジャズの楽しみ方のほんの1例であり、そんなことしなくても楽しめますよ、という声が聞こえてきそうである。しかしながらこれは個人のブログゆえ、ご容赦下さいませ。なるほど、と思った方がいれば是非一度お試しあれ。
ということで、掴みはオーケーでしょうか。ジャズの糸口は掴めたところで行ってみましょう。
今回はジャズについての第一回目として、私の愛するサックス・プレイヤー、ジョン・コルトレーンと彼の一枚のアルバムのことを書いてみたいと思います。

「ジョン・コルトレーン」
ジョン・コルトレーンといえば言わずと知れたジャズ・ジャイアンツの一人である。下から上まで音符を敷き詰め、まくしたてる様な怒涛のプレイが特徴的であり、当時は「若き怒りのテナー」とか「シーツ・オブ・サウンド」等のキャッチコピーで親しまれていたのも有名なはなし。また、そのプレイが象徴するがごとく執拗な探求心で新しいジャズの開拓を続け、次々とフォロワーを生み続けた。そしてそれは現代にまでも続き「コルトレーン・ジャズ」なる造語まで生まれてくる始末。
もし、あなたが、まだジャズを「オシャレな」とか「カフェのBGMね」等と揶揄したい悲しい人であるならば(そんな人はこれを読んではいませんでしょうが)、ジョン・コルトレーンのレコードを、特にImpulse時代の諸作品、"Live at Village Vanguard"、"Impressions"(この二枚は姉妹盤なんです!Eric Dolphy参加)や"Transition"等々を是非ご視聴くださいませ。文字通り「怒りのテナー」があなたの色眼鏡を叩き割ってくれることでしょう。
そんなジョン・コルトレーンさんは1957年の初リーダー作から亡くなる67年までのたった10年間に、40枚を超えるであろうリーダーアルバムとその他無数のサブリーダー、客演作品を残しました。その中でも"Blue Train"や"Giant Steps"、"Ballads"、"A Love Supreme"などは不朽の名盤としてジャズファンならずとも一度はそのタイトルやカヴァーアートを目にしたことのあるアルバムではないでしょうか。
その中でも私がジャズに没頭するきっかけとなったレコードの1枚が、"Giant Steps"である。
というわけで、私がGiant Stepsの中でも特によく聴く3曲を紹介させていただきたいとお思います。

ひとつは表題曲の”Giant Steps”。A面の一曲目に収録されたこの曲ですが、「シーツ・オブ・サウンド」とはまさにこのこと!といった具合に敷き詰められたテナーが疾走する4ビート、聴く者の興奮を駆り立てます。音楽理論的にも革新的な楽曲とのことですが、残念ながら私にはよくわかりません(コード進行が「コルトレーン・チェンジ」とか言われていますね)。しかし、この革新的なコード進行のおかげで、ピアニスト、トミー・フラナガンがソロの途中、バンドについていけなくなり演奏を諦める瞬間がしっかり記録されています(失敗がそのまま作品にされてしまうところもジャズの魅力の一つ。間違え方がカッコいいんです!)。
そして肝心なのはそのピアノ・ソロの直後、戦意を喪失しボロボロの野良犬と化したフラナガンを救い上げるか、もしくは獲物をかっさらうトンビのように再来し、まくしたてる怒りのテナー、ジョン・コルトレーン!!一気にバンドを終演に導くその様は何度聴いても圧巻の一言。是非とも注目していただきたい。
なお、トミー・フラナガンはこの出来事が心残りだったんでしょう、自身のリーダーアルバムで再演、見事リベンジを果たします(その名もGiant Steps!!)。

「ジャイアント・ステップス('82)/トミー・フラナガン」
二曲目はB2、コルトレーンの最初の妻の名を冠した"Naima"。Giant Stepsとは打って変わって感傷的で、そこはかとなくエキゾチックな旋律をテーマに持つ。また、ボンボン時計のように淡々と反復するべースがオツ。ピアニストはウィントン・ケリー(マイルスのKind of Blue等参加)でコルトレーンに並んでムードを盛り上げている。
この曲はコルトレーン自身もお気に入りのようで、この後発表、もしくは死後に発掘される数々の実況盤で何度も再演されている。後年、どんどんフリー化するコルトレーンのコンボが演奏する混沌ヴァージョンも、それはそれで趣深い。

「カインド・オブ・ブルー('59)/マイルス・デイヴィス」※コルトレーン、ビル・エヴァンス、キャノンボール・アダレイ等が参加のモダンジャズ屈指の名盤
少し話はそれますが、このジャズの変化、「ハード・バップ→モード→フリー」の流れを地で行ったのがジョン・コルトレーンであり、彼の活動を追うことはまた、50年代後期〜60年代ジャズの変容を辿ることに等しいのであります。トレーンの場合、同じ楽曲を実況盤にて何度も発表するので、だんだんと形を崩していく様が手に取れて、また、聴いている側は楽しく嬉しいのであります。
そして最後に、このアルバムの最後に収録された"Mr. P.C."。このアルバムはちょうどハード・バップからモード・ジャズへの変化の過渡期に制作されました。バップな演奏にトレーンのモーダルなプレイというのがこの時期の特色でしょうか。その中でも例外的にブルージーに歌うテナーが堪能できるのがこの曲。しかしそこはコルトレーン、スウィングしてもファンキーではない!粋でダウンホームで不良なハード・バップとは一線を画す、シリアスで緊張感あふれる(ストイックな人間性をそのまま音にしたような)テナーと性急なビート。しかし、しっかりスウィングするのはやはりコントラバスとハイハットによるものか。このベーシスト、名をポール・チェンバースという。そう、すなわちこのタイトルMr. P.C.とは彼のことである。彼とコルトレーンはこのアルバムと同時期に録音されたマイルスの歴史的名盤、"Kind of Blue"でも共演。また、のみならずコルトレーンと共にマイルスのコンボを支え、今作にも大きく貢献。"Mr. P.C."はそんな盟友に捧げるため書き下ろした楽曲であるという。
「マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン」
以上がGiant Stepsの中で、私が特に好きな3曲でございます。
このアルバムの後にも「Coltrane Jazz(‘59)」「My Favorite Things(‘60)」と名作が次々と発表されていきます。もしこのコラムによりGiant Stepsを聴き、あなたのお気に召したのならば、是非とも他の作品も聴き進めていただきたいと切に願う次第でございます。
なお、今回敢えて試聴のためのURLを貼り付けることはいたしておりません。それは、前述の通りですが、ベースがよく聴こえない環境では、ジャズの魅力は殆ど伝わらないと思っているからです!(一方的ですいません!)
なので少しでも興味を持っていただけた方には、是非とも低音のしっかり聞こえる環境にて、ご試聴くださればと思います。
ごちゃごちゃ細かくうるさいなと思うかも知れませんが、これはごく個人的なブログ上での戯言故、何卒ご容赦くださいませm(_ _)m

※どうでもいい情報なのですが、私が萌えたエピソード。コルトレーンは大の甘党で、歯医者が怖く、虫歯だらけだった。嘘か誠か。