2021/02/09 11:53

text by シュウ(G.T.D./Balladmen)


前回の「JazzとJohn Coltrane」の続きとして、今回は私的コルトレーンの厳選5枚を紹介したいと思います。

コルトレーンは第一線で活躍した10年ほどの間に、無数の作品を残しました。それらは吹き込まれた時期や共演プレイヤー、コンセプトによってそれぞれ印象の異なる作品となっています。どの時期をとっても魅力的な作品ばかりで、その中から5枚を選ぶのはキリがなく、またそのときの自分の状況やコンディションによっても違ってくるので、今回は「パンクやロックが好きな友達に聴かせたい」というテーマを設け、5枚を選び取りました。”Giant Steps”は前回紹介したので外してます。

 個人的な考えですが、ロックなりジャズなりの大衆音楽には多少のユーモアが不可欠な要素ではないだろうかと思っています。それこそジャズなどという音楽はユーモアを音にしたような音楽であり、例えば優雅で豪快でリラックスしたソニー・ロリンズのテナーや、アート・ブレイキーの遊び心溢れるドラミング、セロニアス・モンクの珍妙なプレイスタイルや存在そのものが、その最もたるものだと思っているのですが、ことジョン・コルトーレーンに関して言えばどの作品にもユーモアや余裕を聴き取ることが難しい。

「Coltrane Jazz」というアルバムの中にはソニー・ロリンズにインスパイアされ、プレイスタイルを拝借した”Like Sonny"という自作曲もあるが、ロリンズのようにリラックスしたトーンではなく、脳裏をよぎるのは硬い表情で吹奏するトレーンの横顔である(コルトレーンとロリンズはほぼ同年代。気軽に小銭を貸し借りできるほど仲の良い間柄であったそうな。因みにエリック・ドルフィーも)。


さすがは「怒りのテナー」、生真面目でストイックな性格がそのまま作品に現れているという訳ですが、そんな彼もその「リラックス」や「ユーモア」に憧れを抱いたことがあったのではと、ついつい想いを馳せてしまうのであります。


コルトレーンは音楽を始めたばかりの子供のころから、仲間と切磋琢磨した、というようなことはなく、ひたすら一人で考え、ひたすら一人で練習してきたのだそうな。その経験が他人とは全く違う演奏を生んだということですが、その独特、生硬な音色やフレーズのお陰で、活動初期のころはなかなか聴衆に受け入れられなかったとのこと。サイドマン時代、必死で他人と同じように吹こうとしていたという記録もあり、そういったエピソードがまた、彼の音楽を愛おしくさせているのかと、またまた想いを馳せてしまう次第でございます。


長くなりましたが、そろそろ本題に入りたいと思います。


◆Ole (Atrantic/‘61)

アトランティック時代最後のリリース。なんといっても表題曲。全A面を使った18:00強の大作"Ole"。フラメンコリズムに坦々と反復するドラム、ピアノ、絡むベース(×2)にトレーンのソプラノサックスをはじめ、フルート、トランペットが幻想的で不穏な旋律を奏でる。混沌としたリフレインの高揚よ。そしてB1の"Dahomey Dance"。レイジーで自由気ままな伴奏にテナー→トランペット→アルト→ピアノの順で其々らしいソロを展開。「こんな演奏ができたらな」と憧れます。特にエリック・ドルフィーのアルトが自身のキャラクター全開で素晴らしい。またパーソネル欄に"George Lane"と表記されたアルト、フルートのプレイヤーがドルフィーのこと。

ストゥージズがコルトレーンからの影響を明言しているが、この辺りからではないだろうか。Fun Houseなんてまさに。


◆Live at Villege Vanguard (Impulse!/’61)

61年11月、ニューヨークのジャズ・クラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴを録音した実況盤。私が最も好きなレコードです。A1"Spiritual"はコルトレーンの代表作、"My Favorite Things"のスタイルを踏襲したワルツのリズム。厳粛で重厚なイントロ/テーマに背筋が伸びる。ピアノ、ベース、ドラムのアンサンブルは緊張感とリラックスのバランスが絶妙。そして今度はバスクラリネットに持ち替えたエリック・ドルフィーが馬のようにいなないている。

そして特筆すべきは全B面を使った16分強の"Chasin' the Trane"。始まった瞬間からお終いまで突っ走るスウィンギング・マシーンと化したジミー・ギャリソン(ベース)とエルヴィン・ジョーンズ(ドラム)。モーダルに吹きまくるコルトレーンが金切り声をあげる。この曲はピアノレスのトリオで録音。他にも数テイク残っている曲だけど、この盤がベストテイク。私のバンド、Balladmenでも曲作りの参考にさせてもらっています。


◆Impressions (Impulse!/’61,’62,’63)

上記の"Villege Vanguard"と同時期のライヴ録音2曲とスタジオ録音2曲をまとめたもの。という訳でこちらの盤にもエリック・ドルフィーが参加している。やはり特筆すべきはヴィレッジ・ヴァンガードでの2曲。"Impressions"はファンの間でも人気が高く、ライヴでも繰り返し演奏されたとのこと。性急なテンポは"Giant Steps"を想起。ここでもまたスウィンギング・マシーン状態。鼻先に人参ぶら下げて暴走する馬みたいな演奏だ。砂埃で目が痛い。コルトレーン、マッコイ・タイナー、ジミー・ギャリソン、エルヴィン・ジョーンズの「黄金カルテット」による演奏。


◆Coltrane (Impulse!/'62)

その「黄金カルテット」が初めて4人で録音したのが今作。アフロ・リズムの大作、"Out of This World"が目玉か。エルヴィン・ジョーンズのポリリズムが曲全体をうねらせる。よくこんな無茶なフレーズを十分な安定感で演奏できるな、と感心するが、私ドラムのことはよく分かりません。コルトレーンのソプラノ・サックスはモーダルでありながらちらりとメロディックなフレーズをのぞかせる瞬間がたまらない。

その他、コルトレーンのオリジナル曲、スピリチュアルなムードある"Tunji"や、テーマのはっきりした"Miles’ Mode"等名曲多し。今回紹介した5作の中では最も聴きやすい作品かも。


◆Transition (Impulse!/'65)

フリージャズ期突入直前の65年に録音されていながら、どういう訳か死後の69年までリリースされなかったアルバム。解体寸前の黄金カルテットの爆発がしっかり記録されています。「至上の愛」を超える最高傑作と評する声もある通り、激しさと美しさが網羅された充実の内容。

特にA面"Transition"と"Dear Lord"のコントラストが美しい。まるで深夜に直撃した特大の台風と、嵐の後の爽やかな朝が表現されているよう。"Dear Lord"は"Naima"に並ぶトレーン・バラードの極地。マッコイ・タイナーのピアノが美しい。

因みにMC5のロブ・タイナー、このステージネームの由来はマッコイ・タイナー。繋がるロックとジャズ!


以上が「パンクやロックが好きな友達に聴かせたい」コルトレーンの私的厳選5枚となります。

時期にして'61〜'65、モード・ジャズの成熟期からフリージャズ期突入直前までの選盤となりました。この時期には「至上の愛」というジャズの垣根を超えた歴史的な名盤もありますが、それだけなら聴いたことがある方もたくさんいるということで外してます。そして今回紹介した5枚は「至上の愛」が良いと思う方なら必ずフィットすることでしょう。

是非聴き進めていって頂こければと思いますが、当の私は今回の記事を書くため、コルトレーンを聴きすぎて耳にタコが出来ました(笑)


次はコルトレーンから少し離れて何か書いてみようかと思います。