2022/10/12 19:57

 2022年10月、Three Minute Movieは7枚目のアルバムをリリースする。1999年に結成された彼らの長い活動の23年目、6年ぶりのフルアルバムである。新しいメンバーに彼らの盟友であるThe Urchinのマサ氏(ギター)、新しいドラマーにTVTVのヒデ氏を迎え、再び4人になった彼らの初めての作品である。インタビューに際して申し訳なくもひと足先に作品を聞かせていただいたが、キャリアのもたらす余裕と新しいメンバーのフレッシュネスが共存する今の彼らにしか表現できない作品がそこにあった。そして再びその中心人物のナベ氏に話を伺うと、以前に増して迷いのない真っ直ぐな眼差しを受け取るような気持ちになったのであった。まるで酔いが回ったあの彼の眼差しを言葉の端々に垣間見るのである(お判りいただけるであろうか)。あたかも「俺はこうなんだ、こういう人間なんだ」と繰り返し告げられるように。


紆余曲折ありつつも進み続ける3MM。彼らの長い活動を遠目に見守ってきた自分にとっては、一枚一枚アルバムの発表がとてもめでたい気持ちになる。そして勇気をもらう。続けることでしかできない表現がある。彼らはその可能性を押し広げ、今も未来を見ている。


text by G.T.D. Records


G:7枚目のアルバム「March Winds and April Showers Bring May Flowers」、発売おめでとうございます。音源じっくり聞かせていただきました。前作のアルバム「Whisky Train」、前々作の「Air Raid」と比べて随分肩の力の抜けた印象、3〜4枚目辺りのアルバムの雰囲気に近いものを感じました。再び4人編成となったことも影響しているかもですが、ナベさん自身は完成したアルバムについてどんな印象を持ってますか?


N:ありがとうございます。お、そんなに印象が変わりましたか?やはりマサがギターで加入して再び4人になったのはデカいかな。アレンジの幅は確実に広がりましたね。3rd〜4thアルバムの頃を特に意識したわけじゃないんだけど、結果的にそうなったのかもしれません。あとドラムのヒデちゃんが加入して若返ったのでフレッシュで瑞々しい、そんなアルバムに仕上がってると思います。

G:そうですね、今回インタビューさせてもらうことになってので全作品を聴き直したんですが、前作、前々作は新しいことに挑戦しようというか、何かコンセプトがあってそれを目指しているように聴き取れます。今回は確かに若々しい感じもするし、ありのままを表現しているように感じました。逆に今回のアルバム製作にあたって、コンセプトみたいなものってありたしたか?


N:特にコンセプト的なものは無かったですね。そういう意味では肩の力が抜けてありのままの音を出せたかなと思います。しいて言うなら酒が進むようなアルバム、バンドの楽しさが伝わるようなアルバムにしたいっていう話はしました。


G:今回のアルバムを最初に聴いて最も印象深かった曲は"Find Your Light"でした。流麗な旋律で韻を踏まれた詞も気持ちいいし、これまでの3MMになかったアレンジかなって思います。何処かのライブでも確か聴いてるはず。この曲はどんなふうに生まれたんですか?


N:"Find Your Light"はブリティッシュ・フォークを聴いてて思いついた曲です。

Nick DrakeやHeron、David Lewisなど。鉄琴を入れたのはMartin Newellの"Sylvie Toy Town"からきてます。メンバーに曲のイメージを伝えるのに「ピアノの弾き語りみたいな感じで」って今思うと無茶ぶりですよね。レコーディングの直前までリズム隊のアレンジが決まらなくて、インストにしようかって話もあったんだけど、結局良いほうに向かったかなと思います。自分でもここまで化けるとは思いませんでした。

G:なるほど。とても綺麗な曲です。何度でも繰り返して聴いてしまう。他にこのアルバムを作る上でよく聴いていた音楽、意識したバンドとかシンガーとかっていたりましますか?


N:色んなところから影響を受けているので曲によってって感じなんだけど…アルバムを作った時に1番聞いてたのはThe Strokesの新譜ですね。あの悦に入ったボーカルは凄いと思います。


G:例えばタイトル曲の"March Winds and April…"なんかはどうですか?あの曲も凄く好きで、3rdとかに入っていても違和感ないなとか、勝手なこと考えてました。歌詞、タイトルなんかもナベさんらしくて好きです。3rdの曲ではありませんが"Fish Don't Think They Swim"とか"Another Night, Exchanged Letters"とか思い出したりしましたね。


N:おお、まさか"Fish Don't〜"や"Another Night〜"が出てくるとは。ありがとうございます。言われてみれば確かにそういうニュアンスはあるかもしれません。"March Winds〜"はKirsty Maccollみたいなイギリスの80's POPぽい曲がやりたかったんですよね。The PearlfishersやBMX Banditsなど、ギターポップも聴いてた時期に出来た曲です。結局のところ自分の節になってしまうんですが。歌詞は阿部昭の短編小説"天使がみたもの"から影響を受けました。久しぶりにPVも撮ったので是非観て欲しいです(バンドのYouTubeチャンネルも開設しました)。


G:おお、色々キーワードが出てきましたね。音楽はこうでなくちゃ。ルーツを見聞きすると更に聴くのが楽しくなります。しかし、初期から通して聴いて、曲単位やアルバム単位でテーマがあったり新しい試みが垣間見えたりしますが、基本的には変わってないですよね。前のインタビューでも触れましたが、ナベさんの持ってるメロディ・ラインや声は何も変わってない。因みに、"RiffRaffs"はケン・ローチ監督の映画由来だったりしますか?


N:そう、ケンローチの"RiffRaffs"から来てます。下層階級の労働者の生活を描いた映画ですが、この曲のテーマもそこを歌いたかったんです。下北沢で飲んだあと帰りの道すがら寝てしまい、朝気づいたら緑道のすべり台で目が覚めた時の事を歌詞にしました。どうしようもない日常をドラマチックな詩に落とし込む手法です。サビの"sliding with…"とすべり台を掛けてます。後半の街を去っていく下りはドイツの作家、クレメンス・マイヤーの"夜と灯りと"という社会の底辺で生きる"負け組"の人々の生活を描いた短編集から影響されました。曲はCock SparrerやThe Clashなどストリート・パンクとの融合を目指しました。


G:やっぱり!ケン・ローチ監督いいですよね。「リフ・ラフ」は僕も好きな作品です。ケン・ローチの作品は問題を投げかけられているようで観ていて辛くなりますが、無くなってはいけない視点だと思います。特に現代ははみ出し者や社会的弱者が無視される価値観にどんどんシフトしていってるように思うのですが、僕らが好きな音楽はだいたいそういうところから生まれている思うんですよ(ブルースしかり、パンク・ロックしかり)。なので、3MMがそういう視点で音楽を作り続けていることが嬉しく心強いと思いました。酔っ払いについて歌うことが誰かの役にたっているんです(笑)

(※ケン・ローチ:イギリスの映画監督。主に労働者階級や移民、貧困などの社会問題に焦点を当てた作品を製作する)


N:酔っ払って野宿したっていう歌がこんな評価を受けるとは(笑)しかしながら、実際のところ今回のアルバムで『Angry Days』って言葉を使って何曲か歌ってるのは、そういう末端の弱い立場の人たちを切り捨てるような世の中の風潮に対してでもあるんですよね。


G:発表した後の作品は誰がどう捉えるか分からないから、それもまた面白いですよね。価値観が共有できたみたいで良かったです(笑)

あと、その『Angry Days』でいうとLittersとのスプリットEPにも収録されている"Stay By Yourself"ですよね。ナベさんらしい真っ直ぐな歌詞とストレートなパンク・サウンドでこれも好きな曲です。この曲が書かれた背景を教えてもらっていいですか?


N:"Stay By Yourself"はアメリカのプロレスラー、アラビアの怪人シークの言葉で。その甥っ子のサブゥーがその精神を受け継ぎました。サブゥーは束縛されることをなによりも嫌って、プロモーターとはあくまでも対等な関係であること。団体の“付属品”にならないこと。試合をするリングは自分で決め、自分が運転するクルマでそこまで行くこと。テレビになんとなく映し出されたものではなくライブで体感しなければプロレスは意味がないと考える。このサブゥーの大きなものに巻かれず自分達のことは自分達でやるっていう考え方が、パンクのDIY精神に近くて凄く共感したんですよね。

それで自分もこの精神を勝手に受け継ごうと思って曲を書きました(笑)

G:なるほど!3MMの曲はどの曲もそれが書かれた背景、聞かなくちゃわからない背景があって面白いですね。曲の聞こえ方も変わってくるし、このインタビューからバンドを知る方がいるとすれば、また違った印象を与えると思います。

では、次は今回のアルバムのレコーディングやサウンド、リリースについても話していただければと思います。確か自分たちで新しいレーベルを立ち上げてリリースするのも今回が初めてだとか?


N:はい。紆余曲折ありましたが、7枚目にして初めての自主リリースです。実は前回のG.T.D.のインタビューで最後にそう言って締めてるんですよ。


G:確かに、仰ってましたね。


N:自分たちでレコード店とやり取りしたり、発送したり。分からない事だらけですが、ダイレクトに関われるのは楽しいし充実感を感じてますね。


G:じゃあデザインやプレス、その他、リリースに関わってくる作業も初めてもことだろうし大変そうですね。


N:ジャケットデザインはX-Titsのキモノ、プレス工場やマスタリングスタジオを紹介してもらったり、その他色々と相談に乗ってくれたBASE(高円寺のレコード屋)の飯嶋さん。自主と言っても協力してくれた友人たちのおかげで完成したアルバムだと思ってます。


G:スタジオもいつもと違いますか?EPも含めここ何枚かの作品とギターサウンドが大きく違って聴こえます。わりとザクッと重ためだったのが、カラッと渋めのサウンドになってて、個人的には今回のが好みです。


N:今回は幡ヶ谷のシュールサウンドでレコーディングしました。Rockbottomが使っていて良さそうだったので。機材も良かったし、天井が高いからか各パートの鳴りも良かった。

エンジニアの方が音作りや演奏に関してアドバイスしてくれて。結構ダメ出しもあって大変だったんですが凄い勉強になりましたね。

ギターアンプがマーシャルのSL-Xで、自分が3MMの4thアルバムまで使っていたヘッドだったんです。だから3rd〜4thを感じさせる様なサウンドになったのかなと。中域が粘っこい心地良い歪みを作れたと思います。

G:なるほど、全体的にスッキリしたサウンドに仕上がってますよね。それがリラックスした印象を与えてるのかな?


N:そうですね。レンジの幅も広くて全体を通して心地良い、繰り返し聴けるようなサウンドに仕上がったと思います。


G:今後は新たに立ち上げたレーベルから、何かリリースの予定とか、どうしていきたいとかは考えてます?


N:とりあえず自分達の音源をリリースするレーベルとして運営していきます。今回でリリースに関するフットワークが軽くなったので新曲がたまったらまたレコーディングしたいですね。


G:活動の幅が拡がって、これからも楽しみですね。そういえば前回のインタビューで聞きそびれたのですが、マサさんを誘った、のかな?加入した経緯を教えてもらって良いですか?個人的には2人とも古い友達なのでなんか嬉しかったんですよね。


N:3MMが3rdアルバムを出した後くらいだったかな。それまでのギターが就職して抜けちゃって。イタリアのThe Miles Apartが来日した時のツアーでマサにヘルプでギターを弾いてもらった事があるんだよね。その時にいい感じだったからまたやろうよって俺から誘ったんだよ。俺は1人でギターを弾くのに限界を感じてたからもう1本ギターを探してたんだわ。10代のころからお互いに知ってるから近い仲だし。聴いてきた音楽も近いから。ちなみにマサが1番好きなのはラウドネスとボーイ。その辺りは全然一致しない。


G:最初から違和感なかったですもんね。メンバーが変わったり増えたりすると、必然的に心機一転となると思うのですが、逆にバンドが長続きする秘訣なのかななんて、最近は思ったりしてます。メンバーチェンジなしで問題が無ければそれが1番なのでしょうが。


N:違和感なかった、そう言ってもらえるとマサも喜ぶと思いますよ。何と言ってもSnuffy Smile(レーベル)のツアー中に休憩する高速のパーキングで毎回カルビ丼を食べ続けるという伝説を打ち立てた漢ですから。

メンバー変わるのは色々と大変だからもちろんメンバーチェンジなしが望ましいんだけど...前向きにとらえると新しい息吹きがそこで生まれるかもしれない。そこをどう持っていくかってところだと思いますね。


G:バンドって仲が良いだけでは一緒にやれないし、かといって良いプレイするだけでは続かないじゃないですか。職業であれば話は違ってくるけど、身銭で遊んでるだけの趣味じゃない。ちゃんと音源売ったりライブのギャラでバンドをまわしていかなくちゃいけない。その感覚を共有するのってけっこう難しいことだとか思ったりします。その点3MMはナベさんを中心に良い関係が築けているなって、傍から見ていつも思いますね。ナベさんとレンさん(ベース)のコンビネーションがどこかグッとくるものがあるし(笑)しかし、マサさん食べ過ぎです(笑)

N:まあ、自分も周りを引っ張って行くような性格じゃないので、そういう感覚を伝えるのは難しく感じることもあります。でも真剣に向き合って、そこから良い物が作れたら楽しいもんね。ライブもそうだし、スタジオで新曲が出来た時とか帰り道にくだらない話をしながら何となくみんな嬉しそうな顔をしてる。そういう時にバンドってめちゃくちゃ楽しいなって思います。


G:1つのバンドを長く続けて来たからこそぐっと響く言葉ですね。ヒデちゃんという若者も加入しましたし、これからも活動を楽しみにしています!最後に何か伝えておきたいことがあれば。宣伝でも構いません。


N:今回凄く良いものが出来たので、実際に手に取って対訳も付けたので歌詞を読んだり、ジャケットのデザインを見ながら酒を飲んだりして聴いて欲しいです。あと久しぶりに地方でライブもやりたいので良かったら呼んでください。10月15日土曜レコ発ヘビーシック、店頭は10月20日発売です。よろしくお願いします!


G:ありがとうございました!

あ、あと、前回のインタビューのときにお借りした安倍昭の文庫本借りパクしてます。今回のインタビューで思い出しました。今度お返しますね。面白かったです(笑)