2026/10/28 18:39

Prologue


2026年11月から12月にかけて、アメリカ・ウィスコンシン州アップルトンからTenementとDuskという2つのバンドが来日し、ツアーを行う。 今回は、その両バンドで作曲し、歌い、Tenementではギターを、Duskではドラムを演奏する男、エイモス・ピッチに話を聞いてみた。


俺が知る限り、この2バンドは近年日本を訪れる数多くのバンドの中でもひときわ特異な存在であり、今の日本でこそ聴かれてほしい音楽だと思っている。


音楽が細分化され、それぞれのジャンルが洗練を極めていく一方で、異なるスタイル同士が自由に交わる機会は少なくなってしまったように感じている。 俺はそういった状況を少し退屈に感じていた。 そんな俺の思いを吹き飛ばしてくれたのが、2025年の夏、ウィスコンシンで観たDuskのライブだった。


俺は彼らの音楽を「音楽交差点」だと考えている。そして俺はこの言葉が好きだ。

なぜなら、いつの時代も人々に支持され、時代や状況を変える力を持っているのは、こうした「音楽交差点」的な音楽だと思っているからだ。

俺はこの2バンドの日本ツアーが楽しみで仕方がない。

Text by Shu Hamaji (G.T.D.Records/Balladmen)



about DUSK

シュウ: こんにちはエイモス。今回は11月~12月のTenementとDuskの日本ツアーに先駆けて、両バンドのメンバーである君にインタビューさせてもらいたい。

君は、バンドはTenement、Duskをやっていてソロ作品もリリースしている。またCrutch of Memoryというレーベルを運営し、そこからリリースする作品のレコーディングを手がけ、さらにはOdd Noteというレコード店を営んでいる。そんな君の音楽や生活、過去やこれからについてとても興味があるんだ。

昨年、俺が自分のバンドと共にウィスコンシンを訪れ、Madisonという街で初めてDuskのライブを見た時、一聴してバンドの複雑だろうルーツに想いを馳せた。

まずは君がDuskを始めることになった切っ掛けやバンドのコンセプト、始まった当時に目指していた音楽について教えてもらえないかな?

エイモス: Duskを始めた頃は、それまで一緒に音楽をやったことのなかった友人たちが集まって、好きな曲をカバーするための、気軽な口実みたいなものだったんだ。カントリーやガレージロック、R&Bといった、みんなが大好きだけど、それまであまり手を出してこなかった音楽のスタイルを試してみたかったんだよ。

僕らは何度かデモ・セッションを重ねて、そのたびに友人たちを招いて、一緒に曲を作ったり、レコーディングしたりしていた。そういう音楽の世界で、自由にコラボレーションを楽しんでいたんだ。

それを1年ほど続けるうちに、少しずつ、ほぼ現在のDuskのラインナップが出来上がっていった。ごく初期には、リー・モーゼスやNRBQ、それからフライング・ブリトー・ブラザーズなんかをカバーしていたのを覚えているよ。とにかく楽しみながら、まずはエンジンをかけていくような感じだったね。

僕らが最初期にレコーディングした曲のひとつは、アラン・トゥーサンの作曲した「It's Raining」のカバーだったんだ。タイトルを「It's Snowing」に変えてね。

シュウ: 「It’s Raining」を「It's Snowing」とは雪国らしくていいね。俺もその曲をカヴァーしたことがあるよ。大好きな曲だ。

そうだね、Duskの音楽はスタイルを決めて箱に収めていくというより、箱からはみ出すことを楽しんでいるような音楽だ。

2ndアルバム「Grass Pasture」を聴くと、現在のメンバー5人が全員が曲を書き、歌っている。それでいて一つの作品として纏まっている。

バンド骨格となっている音楽はやはりカントリーやロックンロール、パンクなのかな?みんなが共通で好きな音楽を教えてほしい。

エイモス: うん、だいたいそんなところだと思う。

僕にとっては、基本的にはポップソングを書くことが中心にあって、それをカントリー、ロックンロール、パンクの本物のフィーリングに形作っていくことなんだ。

カウボーイハットを被って、ちょっと鼻にかかったカントリーっぽい歌い方をするのは簡単だ。でも、衣装みたいな表面的な部分を越えて、そういう音楽の本質を理解して捉えること、あるいはそれら全部を意味のある形で混ぜ合わせることは、そんなに簡単じゃない。

個人個人の音楽の好みは、本当にバラバラだよ。

僕たちを結びつけているのは、「曲」そのものに対するものすごく強い情熱なんだと思う。



Dusk: タイラー、ライリー、エイモス、リドリー、ジュリア(L to R)



エイモス: ジュリアは、Randy Newmanみたいな、甘くて観察眼のあるバラードに一番惹かれるかもしれない。

一方で僕は、ホンキートンク・カントリーと、その周辺にあるロックンロール――Delbert & G lenとか初期NRBQみたいなものが好きだ。

タイラーはヘッドバンガーだよ。彼について最初に知ったことのひとつが、Black Sabbathが大好きだってことだった。それに、Deep Purpleを教えてくれたのも彼だ。

ライリーは、Beach Boysみたいな大きなハーモニーや壮大なアレンジが好き。

リドリーは抽象的な男だね。もっとアヴァンギャルドな音楽にある即興性とか、ひねくれたユーモアが好きなんだ。でも、そういう姿勢を僕たちの音楽にも持ち込んでいる。


もちろん、僕たち全員をそんなふうに単純に分類できるわけじゃない。お互いの領域にも入り込むし、そういうものが全部混ざり合って、結局「Duskというもの」になっているんだと思う。

シュウ: なるほど、やはり一筋縄ではいかないというわけだ。メンバーそれぞれの個性や音楽的趣向が混ざり合ってバンドを形作っている。音楽に対する情熱がメンバーを結びつけている。最高にクールだし、個人的にはまさに理想的なバンドの姿だと思うよ。

エイモス: だからこそ、僕らはBalladmenのライブを観たとき、みんなあんなに興奮したんだと思う。

君たちの音楽には、ジャンルを簡単には特定できなくさせる何かがあるんだ。たぶん、さまざまな音楽的影響が互いに心地よく押し引きし合っているからなんだろうね。

でも君たちは、そうしたものを自分たちだけが持つ独自の個性へと形作っているんだ。

シュウ: ありがとう、とても嬉しいよ。

ところで君はElton Johnは好きかい?俺はElton Johnのレコードを聴くと君の歌を思い出すんだ。特に映画「狼たちの午後」のテーマ、「Amoreena」なんて君の歌にそっくりだ!

エイモス: Elton Johnの大ファンってわけじゃないけど、「Amoreena」は大好きだよ!

友達のPerry Shallに教えてもらって、一時期あの曲にものすごくハマってたことがある。もしかしたら、その影響が僕にも染みついたのかもしれないね。

他に好きなElton Johnの曲……何だろう。「Bennie & T he Jets」? 悪くないね。

うーん……彼のことはリスペクトしてる。ただ、アメリカで育ってきて、彼の音楽をあまり良くない文脈で耳にしすぎたんだと思う。


Dusk in Madison, WI


about TENEMENT

シュウ: Tenementについて、残念ながら俺は前回の来日ツアーを見ることが出来なかったんだけど、音源を聴く限り、歪なフレーズや複雑な展開がありながらも、基本はとてもキャッチーなパンクロックだ。「The Blind Wink」というアルバムを例にとると、Black FlagやSaccharine Trust等、SSTレーベルの諸作品からの影響も垣間見える。

エイモス: 僕たちはみんな、筋金入りのSST好きだよ。

シュウ: やっぱそうだよね。だけどその後Duskに繋がるようなカントリーテイストな楽曲もあったりバラエティーに富んでいるね。

エイモス: Tenementのメンバーの中で、本当にカントリーに興味があるのは僕だけだと思う。

それは他のメンバーとは違って、僕がそういう音楽に囲まれて育ったことが大きい。ウィスコンシンの田舎で子供時代を過ごしたから、僕が最初に音楽と出会った経験の多くには、何らかの形でカントリーが関わっていたんだ。

シュウ:「 Hey Soozie」って曲はDuskでもジュリアが歌って録音しているよね。

エイモス: Tenementでの活動からDuskでの活動へ移るときに、Tenementの曲をひとつカバーしたら面白いんじゃないかと思ったんだ。しかも僕よりずっと歌が上手いジュリアに歌ってもらってね。

シュウ: Tenementのコンセプトや音楽の成り立ちについて、またDuskとの関係性について話してもらえるかな?

エイモス: Tenementを始めた2006年当時、僕らは高校を卒業したばかりだった。メロディックなパンクへの興味と、もっとヘヴィでアグレッシブなものを組み合わせることが、当初の目標だったと思う。

僕は子供の頃から、ロック、カントリー、ポップスなど、あらゆる種類のメロディックな音楽に夢中だったんだ。そして10代前半の頃にRamonesやDescendentsに出会って、自分の抱えていた苛立ちや葛藤に響くような曲作りがあるんだと気づいた。それは僕にとって大きな発見だったよ。

ベーシストのジェシーとは高校で出会ったんだけど、彼が僕にエクストリームな音楽を教えてくれたんだ。

彼は僕らの友人グループに、ハードコア、パワーヴァイオレンス、スラッシュ、デスメタル、ノイズといった音楽を持ち込んできて、僕もそのいくつかに夢中になった。

僕らは日本のパンクやメタル、80年代のハードコア、それにアメリカのスラッシュ、デスメタル、ドゥームなんかにも共通の興味を持っていた。

僕にとって、日本のパンクには、何かまったく制御できないようなものがあったんだ。そして、その感覚を自分たちの音楽にも取り入れたかった。まるで、激しく振った炭酸飲料のボトルの栓を開けた瞬間のような感じさ。荒々しくて手に負えないんだけど、同時に美しくもあった。最初は、そういう感覚を追い求めたかったんだ。

だから、僕らが大好きだったバンドのひとつ、Total Fury(仙台のハードコア・バンド)のアメリカでのライブで、活動初期にオープニングアクトを務める機会を得られたのは、夢のような出来事だったよ。もちろん、僕らは年月とともに進化していったし、その時々で興味を持っていたさまざまな音楽の要素を、程度の差こそあれ、バンドの音楽に取り入れてきた。でも、あの頃の精神を完全に失ったことは、一度もなかったと思う。

僕の中では、TenementとDuskはまったく異なるバンドなんだ。というのも、音楽を突き動かしている衝動そのものが違うからね。

Tenementは、作曲という芸術を底流に持ちながら、ロックンロールの生々しいエネルギーを一気に爆発させるバンド。

一方のDuskは、ロックンロールの精神とエネルギーを底流に持ちながら、作曲という芸術を追求するバンドなんだ。

シュウ: それはとても興味深い比較だね。対照的でありながら、君にとってはどちらが欠けてもいけないバンドのように俺には聞こえるよ。とてもクールな関係性だ。

Total Furyは俺も1度、仙台という街でライブを見たことがあるよ。もう20年も前のことだけど、忘れられないショウだった。ほんと、炭酸飲料の爆発みたいなライブだったよ。

エイモス: 最高だね。僕たちが彼らと一緒にやったのも18~19年くらい前だった。でもさらにそこから5年くらい前、たしかミネアポリスのHavoc Thrash Festだったと思うんだけど、彼らの伝説的なアメリカ公演の写真を、みんなで驚きながら見ていたんだ。あのライブの写真は、僕たちにものすごく大きな印象を残したよ。

シュウ: 俺は良い音楽を作っていくためには、進化していくこと、初期衝動の精神をどこかに隠し持っておくこと、どちらも必要だと思う。ただ、その状態を保つのは難しいことなんだよね。

エイモス: 本当に難しい。難しい理由のひとつは、アーティストである僕たち自身が、自分たちの変化をコントロールしているからだと思う。

いつ変わるのか、いつ変わらないのかを、自分たちで意識的に決める。

自分自身がもう興奮できなくなったというだけで、最初に自分たちの作品を好きになってくれた人たちにとって、その作品を特別なものにしていた要素を全部捨ててしまうことも簡単にできてしまう。それだけで、自分たちの音楽を好きだったファンを遠ざけることになる。分かるよ。僕自身、以前それをやったことがあるから。

シュウ: Tenementは新しいアルバムを制作したらしいね。ジェシーは今、フィンランドに住んでいると聞いたけど、君はアップルトンだろ?他のメンバーもアメリカ?どうやって曲を作ったり録音したりしたんだい?

エイモス: そう! 新しいアルバムの制作は、もうほとんど終わってるよ。

去年の夏、みんなAppletonのCrutch Of Memory(エイモスの録音スタジオ)に集まって、それぞれのパートを録音した。

ジェシーはフィンランドから飛んできて、ジェリー(以前Vacationというバンドにいて、今はTenementでギターとボーカルを担当している)はオハイオからウィスコンシンまで来た。今は僕が全部をまとめながら、オーバーダビングをしているところ。その次がミックスだね。曲は全部僕が書いた。これまでのフルアルバムもそうだった。16曲、33分。かなり良い感触だよ。

シュウ: それは楽しみだね。じゃあ、今度の日本ツアーでは、またみんな現地で集合して、ほとんどそのままライブに突入する感じ?

エイモス: そうだね。11月のツアーが始まる数日前に全員東京に飛んで、練習スタジオにこもって、なんとか形にするよ。幸運を祈っててくれ!!



Tenement: エイモス、エリック、ジェシー(L to R)


中編へ続く